■
塾の先生が、中学数学の展開の公式をまず丸暗記しろとtweetしたら、なんて酷い塾だとボロクソに言われていた。
これに対して本人がブログで反論している。実にもっともな意見だった。
あれを批判する人たちは、子供たちの現実というものを全く知らないのだ。
・・・
もちろん、展開の公式は、普通に分配法則を使って解けば出てくるものであって、頭から「丸暗記」する必要は全くない。むしろ説明から入るのは当然だ。
ところが、そういうやり方がうまく行くのは、あらかじめ最低でも正負の四則演算が問題なくでき、分配法則を十分に理解しており、説明を理解する能力があり、そしてすぐに記憶できてしまう子供に限られる。
そういう優秀な子供は極めて少数だ。
四則演算や分配法則が怪しい子供は普通にいるし、何をどう説明しても全くピンと来ない子供も少なくないのだが、そういう子供に上記の説明をしても全く無意味で時間の無駄である。つまり、お手上げ状態になる。
ではどうするかというと、「なんでもいいから暗記しろ」と言うよりない。
そして、暗記してくれるどうか、暗記して使えるようになるかはまた別問題だ。
・・・
もう一つは暗記の効用を軽んじてはいけないだろう。
公式が成立している理由を理解することは大事なことではあるが、展開するのにいちいち分配法則を使ってゼロから計算していては時間がかかりすぎる。
さらにどうしてそういう公式が使えるのか教えようがない場合すらある。
たとえば、私は球の表面積・体積の計算ができるが、どうしてあの公式で計算できるのか、私は全然知らないし、説明もできない。教えられた記憶もない。
ただ暗記しているだけだが、それで中学校の数学としては十分すぎる。「どうして公式通りに計算すると球の表面積・体積が出てくるのか、まず説明しろ、そうでない先生はアホだ」と批判するほうが愚かではないか。
・・・
この種のことは何も数学に限らない。
あらゆる教科に言えることだが、どういう説明をいくらしてみても全く理解できない子供は非常に多い。むしろそちらの方が普通かもしれない。(私が大人の日本語能力を大変に疑っている根拠の一つはこれだ。日本語能力が怪しいままに大人になっている人が多いということなのだから)
そういう子供に最終的に言えることは「なんでもいいから暗記しろ」の一言以外にありえない。
ところが、たいていの子供は暗記するとはどういうことかそれ自体を分かっていないし、ましてや暗記の方法なんて出てこない。暗記しろと言ってみたところで、暗記なんてそうそう簡単にしてくれない。
それでも、無理やりでも暗記して試験にのぞむと、それなりの結果になることが多いのは当然で、実際のところ試験でそれなりに点を取るためであれば、暗記するだけで十分だ。それで本人が少しでもうれしい気持ちになれば、目下のところはそれでよいと思う。
無論、勉強するということはそういうことではない。そんなことは分かっている。しかし、本人の資質上、どうにもしようがない場合、他にどういう手段があるというのだろうか。
優秀な子供にはそれにふさわしい教授が必要であるし、優秀でない 、並み以下の子供にはその子供にあった教授がそれぞれに必要だ。
「展開の公式を丸暗記しろなんて!」と頭ごなしに否定できない現実が厳然としてある。