ファシズム政権のような独裁体制に国民からの支持・コンセンサスがあったという問題は根深いものがあるようだが、現在のところは次のように言えるらしい。

ファシズム政権が通常の政権運営として大過なく推移している場合、様々な問題があるとしても、ほとんどルーティーンのように国民からコンセンサスが得られるもので、そのために、いくら政権側に問題があるとしても、政権が転覆するというのはなかなか難しい。

底が割れるのは、かなり大きな危機があった場合に限られ、イタリアのファシズムの場合は第二次大戦の戦局がだれの目にも悪化し、国民の日常生活も疲弊しきって労働運動まで起きようかというときになって、ようやくムッソリーニの首が取れた。

ムッソリーニにとっての危機は、これ以前には1924年のマッテオッティ事件までさかのぼる。それからは基本的にはほぼ動揺なかったと言ってよい。

1930年代後半になると、ムッソリーニは自分の年齢を考えて後継のことを念頭にいれるようになったが、そのくらいに状況は安定していた。

だから、もしも第二次大戦がなければファシズム政権はずっと続いていたはずだという説があるが、それは故ないことではない。

もちろん、ファシズム政権が続くこと、ある程度のコンセンサスがあったことは、必ずしもその体制を是認することを意味しない。反ファシズム運動は早い段階から、合法非合法を問わず展開されており、その背景には倫理的な意識があり、かつ結果的には反ファシズムに理があった。

これは現在でも大変に参考になる議論だと、私は思っている。