ドン・キホーテ現象」は政治的左右は関係ないと思うが、ただ、現在のところ明らかに右派のほうが優勢だ。

もちろん、左派が政治的扇動にネットを利用していないわけではないが、右派の方がはるかに効果的に利用していることは、人権擁護法案反対運動の時から自明で、現在でも変わっていない。

・・・

また、そもそもネットでは、マスメディア批判が旺盛だったことも念頭にあるべきだ。マスメディアは偏向している、事実に色を付けて報じている、こんなメディアはいらない、ネットのほうが優れている、という話で、この種の意見は今でも普通に見るが、起源は相当以前にさかのぼるはずである。

この「偏向メディア」批判のやり玉に挙がったのが、朝日新聞などの左派系メディアで、これがいまだに連綿と続いているうえ、ネット右翼成立の温床になった。

もっとも、左サイドからの右派メディア批判がないわけではない。たとえば産経新聞を笑うパターンがあるわけだけれども、左派メディアに対する批判に比べると弱いと言わざるを得ない。

昨今では、トランプ大統領の影響で「フェイクニュース」という単語をよく見る。これも主にマスメディアを対象にした批判だ。

マスメディアは信用できない、だからネットで、という話になるわけだ。

・・・

ただ、この種のメディア批判はすでに反省をするべき時期に入っている。

たとえば、マスのメディアでは、最低限のファクトチェックはたいていの場合なされるが、ネットで流れる情報はファクトチェックはまず行われない。

しかも、あれだけ「事実だけ報じればいいのだ」とネットサイドから言われていたのに、ネットの情報は事実と意見がごっちゃごちゃになるのが当たり前で、新聞よりもはるかにひどい。

もし「フェイクニュース」というならば、ネット上の情報の方がはるかに「フェイク」度合が高いのは明らかであるにもかかわらず、新聞・テレビといった従来のマスメディアは批判され、Twitterなどのほうがいい、という意見の方がむしろ強い。

しかも、ネットでネタになるようなニュース・情報のソースは、たいていの場合は新聞記事のネット配信か、それに近いものではないか。

どう考えてもおかしい。

・・・

という次第で、右派に偏った「ドン・キホーテ現象」が流行する素地は十分にある。

もちろん、ネットも新聞やテレビも、いずれも使いようであって、例えば私は普段テレビを見ないので、どういうニュースをテレビでやっているか知らない。ああいうメディアと接触しないのもいい方法だと思っている。

新聞も日常的には読まないが、あれば眺めるようにしている。自分が知りたい情報だけではなく、あまり興味がないことも伝えてくれて勉強になるうえ、あれだけコンパクトにまとまった媒体はなかなかない。ただし、日本の新聞は老眼の中高年向けに字が大きくなりすぎ、海外紙と比べて情報量が格段に少なくなってしまったことが最大の問題だと思うが、それでも新聞の優位性・便利さは依然として保持されている。

ネットも手軽に知りたいことを知るにはちょうどいいが、TwitterなどのSNSで情報を得るのはもうほとんど時間の無駄の次元になっているのではないか。もちろん、使い方の問題が多分にあるのはそうだと思うが、ノイズが多すぎる点は如何ともしがたく、極度にイライラさせられる。

優秀な書き手がネットにいることも承知しているが、しかしネットの問題は大きくは情報の発信のされ方、受信のありようにあるように見える。つまり、現在では様々な経路から個人の嗜好・志向が解析され宣伝の対象として個人個人が狙われる形になっていて、そのためにかなり自覚的にならなければ、容易に宣伝に流されるようにできてしまっている。こういう事態をいかに自覚的に避けていくか、よくよく注意しないと、「ドン・キホーテ現象」が進行するだけではないか。