日本の目標は単位人口あたりの死亡者数を最小限に抑えることだが、もう一つ、政治的には強権的手段は使わずに民主主義を極力維持しつつ、パンデミックを乗り切るモデルを国際的に示すことにあるのは間違いなくて、これは武見敬三が何度も言っている。

 

その点、韓国は根本的に違うと言うか、真似できない。日本と戦後の歴史が違いすぎる。感染症対策はそれぞれの国や地域の歴史を如実に反映する。

 

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WHOをゆく: 感染症との闘いを超えて

WHOをゆく: 感染症との闘いを超えて

  • 作者:尾身 茂
  • 発売日: 2011/10/21
  • メディア: 単行本
 

いい機会だから感染症の本を読もうとか、公衆衛生学の教科書でも読んでみようとは一切思わないが、日本人の細菌学者や感染症の学者はどういう人たちなのだろうかという興味を持った。

 

それで、北里柴三郎の伝記や志賀潔の随筆集などを読んでみたが、本当に読みたかったのは、専門家会議の副座長を務める尾身茂が書いたこの本だ。

 

中身は学生時代からWHO時代の経緯、ポリオ撲滅・SARS封じ込めの苦労話、日本の医療への提言などだが、基本的には若い世代への応援歌が通奏低音

 

特に感想はないけれども、ここに書いておくとするならば、

 

・日本は保健衛生では国際的に貢献できると何度も書かれている。現在は状況がやや異なるのかもしれないが、それでも十分な力を発揮しているらしいことは数字となって表れている。

 

・商社マンか外交官になりたかった尾身先生がうっかり医者になってしまい、そこからWHOに入るのはポリオ撲滅に興味をそそられたからで(自分のキャリア形成のために有力者の娘と結婚して、義父のコネクションを使って肩書を得てステップアップしようという類の発想とえらい違いで、たまにこういう立派な人がいるもんだ)、資金集めに奔走したりして各国の政府機関と交渉しているうちに、やってることが若いころの夢だった商社マンか外交官と似たようなことになっている、という話が面白い。

 

 やっぱり、この人は単に医療の観点からだけではなくて、多角的に現実を見て決断することのプロフェッショナルであって、政治家と話をすることや行政機関を動かすことに通じているわけだ。

 

だから、この本には自殺の問題にも触れられている。保健衛生が関わるのは、医療の問題に限らず、広く社会全般なので。

 

今の日本の状況では、新型コロナウィルスよりも、経済問題による自殺者の増加の方がはるかに問題だと私も思うけれども、その懸念をこの人は共有しているだろうということがよく分かった。

 

特におすすめはしないし、一読の価値があるとも言わない。ただ、現在の対策の責任者がどういう人物かを察することができる本ではあった。