カントの「悪」論 (講談社学術文庫)

カントの「悪」論 (講談社学術文庫)

 

パラパラと眺めて、あとがきだけ読んだ。

 (なぜか)容易に悪に陥るような性癖を具えたものとして創られた人間が、それにもかかわらずその性癖に逆行して道徳的に善いことを求め、それを必死に実現しようとすること、そのことのうちにしか道徳的善さはない。言いかえると、(なぜか)容易に嘘をつくような性癖を具えたものとして創られた人間が、それにもかかわらずその性癖に逆行して真実=誠実を求め、それを必死に実現しようとすること、そのことのうちにしか道徳的善さ、いや人間としての尊厳は認められないのだ。

(前略)いかなる「善いもの」を具えていても、この点で欠けている人間は尊敬に値しない。逆に、これらがすべて欠けていても、足元から滑り落ちるような困難な状況にめげずに真実=誠実を求める限り、人間として尊敬すべきなのだ。

 

胸熱くなった。

 

他方で世間を見回すと、「足元から滑り落ちるような困難な状況」をそのまま是認し、そういった状況に「めげずに真実=誠実を求め」ようとしないことを現実主義的だと思われてはいないだろうか。

 

私は、それは現実主義だとは考えない。現実主義というのは、「真実=誠実を求め」るときに、目の前の現実から出発して、「真実=誠実」に向けて延々と歩き続けることであって、目の前の現実をそのまま是認して「仕方がない」と諦めることではないと思うからだ。