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はてなブックマーク - abgone89のブックマーク / 2017年12月15日

abgone89 金融危機後の欧州を念頭に置けば時代や地域を問わない話だよね。ドイツが全然歴史に学んでなくて面白い。

前半部分もたいがいだと私は思うが、この「ドイツが全然歴史に学んでな」いという一言に私は引っかかる。

2011年12年のユーロ危機の時、イタリア贔屓の私もドイツの態度に随分と頭にきたものだ。大衆紙Bildを見ると、ギリシアはユーロから出ていけと大見出しで書いてあり、明らかに南欧人に対する偏見が入った記事がある。腹が立った私は、

「フランス・イタリア・ポーランドからドイツに攻め込んで、フランスの核兵器でもベルリンにぶち込んでやれ」

・・・くらいのことは思った記憶がある。

しかし、ドイツ人にはドイツ人の言い分というのがある。それを忘れてはいけないと思いなおした。

ドイツは、今でこそユーロの勝ち組だなんだと言われているが、21世紀初頭は経済的に苦境で、その頃の新聞には「経済対策を打ったが効かない」という暗い話が出ていた。シュレーダー労働市場改革の真っ最中で、大規模なデモもあった。

ドイツが苦しいときに、誰が助けてやったんだろうか。

日本人も、たとえば子供を持つ親に金を出すという話になると「親が無駄遣いする」と言い、教育に金を回そうというと「俺の税金を貧乏人のアホが使っても無駄だ」と言う。

同国人の間ですらこれなのに、ドイツ人が「南欧の怠け者たちのツケを、なんで俺たちが支払わないといけないのか」と憤慨したとしても、不思議ではない。少なくとも、ドイツ人を責める権利は、日本人には一切ない。

・・・

ヨーロッパ中央銀行の理事(だったか)の本に、ユーロ危機の真っ最中、米国の経済学者たちがいろんな提案をやっていたが、岡目八目の代物で、どうにもならなかった、みたいなことが書かれてあって、笑わされたことがある。

「米国は、現在の連邦準備制度ができあがるのに、何年かかっているか忘れたのか」

ともあって、大笑いした。

つまり、経済学者の意見というのはその程度のものであって、理論としてはともかく、現実に政策として実施することはまた別なのに、それが経済学者たちには理解できないらしい。ドイツ人の心情しかり、ECBの理事の言い分しかり、現実の複雑さが、いとも簡単に忘れられてしまう。

・・・

イタリアから見ると、財政を出したいのはやまやまだけれども、それが出来ないのはひとえに、市場が怖いからだ。だから、超がつく真面目人間のマリオ・モンティが出てきて、大ナタを振るわざるを得なくなった。

岡目八目で「もっと財政出せよ馬鹿」という御仁たちには、「ウォール街を黙らせてくれるんだったらいいよ」と返したい。

特に金融業者に、こういうことを言い出すのがいて、本当に腹が立つ。財政赤字が含らんだところを狙い撃ちした張本人たちが、「もっと財政出せよ」とどのツラ下げてそれを言うか。お前たちのせいで、市場の荒波からなんとか立ち直るために、どれだけの苦労をイタリアは背負い込まされたか。いい加減なことを言うな。ECBの理事の気持ちが分からないでもない。

そういうわけで、リフレ派はダメだが、財政を出せと言う人たちのことも、理屈は分かるが、私は大して信用していない。

・・・

そういう次第だから、金融屋はもちろん、経済学者の言うことに対して基本的には私は眉唾だ。

思えば、himaginaryさん自身もどうかと思う。なるほど、これほど長期間にわたって、毎日、経済に関する英語の記事を日本語に訳して、ブログにアップする、その勤勉さは尊敬する。

しかし、見方を変えれば、himaginaryさん本人の声があまり聞こえてこない。常にえらい経済学者の陰に隠れている。たまに出てくることもあるが、たとえばエイプリル・フールネタなぞはその例だろうが、それも自分と意見や立場の違う人間をただ嘲笑する、つまらない冷笑をするだけだ。

そう考えると、himaginaryさん自身もずいぶんつまらない人ではないか。

・・・

歴史に学ぶというのは、都合のいい話をそのまま現在に当てはめるということではない。

もちろん、過去を振り返って、それを参考に行動することはよくあるし、時に必要なことではある。私がファシズムに興味を持つのも、現在の日本の情勢への意識があるからだ。

現在への視点を抜きにして歴史は書けない。

しかし、歴史は一回きりであって、過去を現在に簡単に応用することは不可能だ。経済学者や金融業者というのは、そのことをいとも簡単に忘れる人たちではないか。この人たちには歴史的な感覚がない。歴史的な意識がない。

それをわきまえたうえで、いろんな研究成果に接することに意味がないわけではないと私は思うが、都合のいいことをそのまま現在に当てはめる道具が経済学だということであれば、

「それ、なんっちゅう学問なの?アホちゃうのん」

と呆れておくしかない。

追記
ここまで書いてから思い出したが、リフレ派の根の一つには、田中秀臣高橋是清や昭和恐慌時代の研究があったことを思い出した。こういう研究それ自体には大いに意味があると思うが、そこからただちに現在の経済情勢に当てはめてみることは、基本的にはできない。

もちろん、示唆は得られるのだろうが、大恐慌の研究で知られるバーナンキですら、理論と実践の差について、セントラルバンカーを自分でやってみるまで分かっていなかったようだから、普通の経済学者・経済史学者にこの種の認識が薄いのは、むしろ前提しておいたうえで彼らの意見や書物を読んだほうがいいのだろう。

経済学を全く知らない私自身を含め、専門家でもない人々は、よほど慎重になったほうがいいわけだ。