イタリアは、ようやく五つ星運動北部同盟の連立ができた。問題となっていたパオロ・サヴォーナを、財務大臣からEU担当大臣へと変更することを北部同盟がのんだ。6月2日が共和国の日であるため、ここまで組閣騒ぎを引っ張ることを、各関係者は望まなかった。

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私は単にもの好きとして適当にニュースを追っかけているだけだが、こういうことがあると常々思うのは、英語だけで情報を取ることの危険性だ。

このところ、世界の情勢はこうだなどと安易に言いたがる人が少なくないような気がするんだけれども、一国だけのことを知るのでも大変だと思うのに、なんで「世界の情勢」を十把一絡げに云々できるのだろう、と思うことがある。

たとえば、イタリア人の反EU・反ユーロ感情を読むのは相当に微妙で、仮に今、ユーロの是非を問う国民投票をやるとどうなるか全くわからないと思うが、そうなってしまう背景の一つに、英米・ドイツなどアルプスの北側の人たちの南欧に対する差別意識への反発が確実にある。

もちろん、イタリアはイタリアで大きな問題を抱えていて、イタリア人自身もそのことはよく承知しているのだけれども、アルプスの北側の人たちの言動からどうしても差別意識が透けて見えてしまうことがあり、高いプライドと劣等意識が同居しているイタリア人は自分たちが差別されていることを敏感に察知してしまう。そうなると、反EU・反ユーロ感情も刺激される。

そういうことは、英語のメディアを見るだけではなかなか分からないのではないか。

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現在のマッタレッラ大統領は欧州統合を進めるべしという立場であり、今回の組閣に伴う混乱の一因には、先日も記したように、財務大臣候補のEU・ユーロに対する姿勢が問題があった。

しかし他方で、大統領は他国のメディアのイタリアに対する扱いをはっきり批判しており、今回の一連の動きを伝えるドイツなどのメディアにも一言言っている。

また、欧州統合に際してマッタレッラ大統領はさかんに「連帯」ということを訴えているように思うが、この「連帯」という言葉には、EUからのイタリアに対する協力、連帯、特にドイツの姿勢の軟化を求めるニュアンスがあるように思う。

という次第で、実際のところ、大統領はイタリアの庶民の感覚、つまりEUやユーロに対するなんとなくの不信感や反発心というものをよく知っていて、そのうえで欧州統合を進めるべしという立場であるようだ。

つまり、北部同盟五つ星運動が「反EU勢力」と簡単にレッテルを貼られるにはなんだか骨がなくて穏健になってしまうのと同じで、本当のところ大統領も見た目ほどはこの「反EU勢力」と対立的でもないのかもしれない。

ついでに言っておくと、私は北部同盟五つ星運動には賛成しておらず、考え方としては共有しないし、今回の連立も本当に成立するかどうか懐疑的だった。今でも慎重に考えていて、議会ではコンテ首相の答弁能力の危うさが早速出ているような印象もある。

ただ、組閣が出来上がった直後、マッタレッラ大統領は記者会見場に出てきて、「一言だけ」と言って記者団に感謝の言葉を語っていたが(そういえば、日本の政治家は「複雑な過程を報道してくれてありがとう」みたいなことはまず言わない)、その顔の嬉しそうなことと言ったらない。心底、ほっとしたようだった。

コワモテそうな北部同盟や面倒くさいこと極まりない五つ星運動を組ませて、一番ニヤニヤしているのは、ひょっとしたら大統領かも、というのは考えすぎだろうと思うが、そういうこともちょっと想像してしまった。

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一国の内政は外国人にはなかなか分からない。現在の政治状況を知るだけでも、今の政治制度を知らねばならないのはもちろんのこと、過去を知らないと現在が分からない。ちょっと英語の新聞記事から情報をとってくるだけでは到底分からないことというものがある。

私もそのためにいろんな角度から勉強したいものだとは思っているものの、イタリア政治ウォッチばかりするわけにもいかないので往生するわけだが、結局、他国のことはそれくらい分からない、ということをよくよく承知しておくべきだろうと常々そう考えている。

簡単に、今の世界の情勢はこうだ、流れはこうだと言えるのが(言える場合もあるのだろうが)、楽でいいなというか、言えるわけがないのにというか。