ホメオパシーはまだ追放確定でない

日本のニセ科学批判的には、これが話題だけども。
http://news.sciencemag.org/scienceinsider/2010/02/-end-homeopathy-on-nhs-say-briti.html?etoc
http://www.publications.parliament.uk/pa/cm200910/cmselect/cmsctech/45/45.pdf


さぞFacebookじゃ、あちらの反ホメオパシーの人たちは大騒ぎだろうと思ったら、そうでもない。毎度おなじみ“Skepchick”ではネタになってはいる。確かに喜んでる。
http://skepchick.org/blog/2010/02/the-end-of-nhs-homeopathy/


もっと勝鬨を上げているかと思ってたのに、なんだか変だなーとコメント欄をよく見たらこうあった。

ianf  Feb 21, 2010 at 2:15 pm

I really hope the government does listen to this report. Times are tough at the moment and wasting money on homeopathy is a nonsense.

Sadly this government doesn’t have a good history of listening to scientific advisors (the Nutt sacking affair being a case in point), so we might be celebrating prematurely.

政府が報告書に従うことを期待したいね。この景気が悪い時にホメオパシーに浪費するなんて馬鹿げている。でも、やんぬるかな、この政府は“Scientific Advisors”の言うことを聞かなかった過去がある、としたら喜ぶのはまだ早いかも。。。って感じか?


BHABritish Homeopathic Association)のサイトには、こんな記事があるし。
http://www.britishhomeopathic.org/media_centre/news/glasgow_homeopathic_hospital_funding_to_continue.html

NHS Greater Glasgow and Clyde confirmed this week that it will continue funding Glasgow Homeopathic Hospital.

NHSが、グラスゴーホメオパシーホスピタルへの支出は今後も継続すると確約したってんでしょ。


どういうことだ??と思っても、付け焼刃で英国議会制度を調べたって何も分からない。ま、ようはCommitteeが政府に「報告」しただけで、何も決まってないらしいということでしょう。


となると、結局は政府の判断が中心になるから、現ブラウン政権はホメオパシーに対してどうなんだという話になる。


ちょっと検索すると、Minister of State for Health Services である Mike O'Brien閣外大臣の当該委員会における質疑が出てきた。昨年2009年11月30日の議事録。めんどっちーので大臣の答弁を中心にざっとながめたが、これがやたら面白い。時間のある人は一読をお勧めする。疑似科学批判の人が怒るよー、これは。
Page cannot be found - UK Parliament


O'Brien閣外大臣は、ホメオパシープラセボ効果だということは認識している。でも予算を付けるって変じゃないかという突っ込みが当然入るわけで。

Mr O'Brien: (略) I think what you are really asking me as a government minister, which is a slightly different category, is whether it would be unethical in every single situation and therefore if as a matter of policy I would take a view on it, and then the answer is I would say that that is a decision which would appropriately be made between the clinician and a patient.

Ministerとして答えるなら、個々の事例についてはあくまでも医者と患者の問題だと。そこに政府が介入することができないんだと。

I think there is an illiberality in saying that personal choice in an area of significant medical controversy should be completely denied, and I think the Government should be cautious about constraining that illiberality, or interfering with it. We should not take the view that patients should not be able to have homeopathic medicine when they want it. There are some clinicians who take the view that it works.

深刻な議論がある医療分野で、患者個人による選択が完全に否定されるべきだいうのは、“an illiberality”だと思う。そして、政府がそのような“illiberality”を強いたり、干渉することについては慎重であるべきだと思う[“I think”を重ねたのは、意味ありげ]。したがって、政府は、たとえ患者が望んでもホメオパシーを利用できないようにするべきだという見解をとるべきではない。ホメオパシーは“work”すると考える医者がいるんだから。


O'Brien閣外大臣の答弁は、基本的にこの線で終始していて、つまり、ホメオパシーが利くと信じる医者と患者がいて、プラセボ効果とはいえそれなりに「利く」んだったら、それ以上文句をつける義理がどこにあるのか、というわけだ。。。面白すぎる。


あとの答弁も面白い。

but we are at the moment in a position where we are spending this money; there is a considerable lobby which does believe it works; they are not stupid people; many of them are very able, very capable people who have done quite a lot of work in this area; and they do believe that it works. Now, there may not be the empirical evidence at the moment for that, but should we stop that spending? Not at this point.

つまり、ホメオパシーが利くと信じているロビイストがかなりいる、彼等はバカでもなく、むしろ非常に有能でこの分野で仕事をしてきた人たちだ、たとえ経験的エビデンスがないとしたって、なんで政府は支出をやめにゃならんのだ、なにも今やめることないと。面白い面白い。


と、こういう面白い発言がたくさんあるので、是非にも読んでもらいたい。


ちなみに、O'Brienはこういう人。経歴をみると、内政全般を見てきたという感じかな。。。
Mike O'Brien (British politician) - Wikipedia


まあ、ホメオパシーだと思うからこの答弁を日本人が見るとぎょっとするけど、でも漢方の議論を日本の国会でしてたら。微妙でしょう。それと同じじゃないかと思う。もちろん、英国王室への配慮もあるんだろうな。あと、他の代替医療との兼ね合いがよく分からない。ホメオパシーだけ狙い撃ちっていわけにはいかないから。


というわけで、ホメオパシーは、まだ追放されそうにない(幻影随想: ホメオパシーがようやく英国から追放されそうな件について)。はてな民は煽られすぎだ(はてなブックマーク - 幻影随想: ホメオパシーがようやく英国から追放されそうな件について)。コメントの中で、あたしに引用されては不本意でしょうが一つ引用させてもらうと。

nofrills health, NHS, 誤訳, 百字では不足 残念乍ら現段階では「完全に追放されることが確定」してません。下院の委員会が「偽薬ゆえNHS should not pay for homeopathy」と前提、議論はこれから。http://bit.ly/dCKL0D http://bit.ly/ceITcx ←新聞の浅い記事の見本/書: http://bit.ly/bCiOMI 2010/03/01

で、nofrillsさんのブログから。
英下院の科学技術委員会の「ホメオパシーについての報告書」の件(記事リンク集つき): tnfuk [today's news from uk+]

私はこの件について英メディア(いつも読んでいるガーディアンとベルファストテレグラフとタイムズ、BBCでも見た記憶はある)のコラム・記事を読んでいるが、ホメオパシーが「一般的医療の否定、科学の否定」の上に立っていること(つまり、例えば「親が子供にワクチン接種を受けさせず、子供が病気になっても『薬』を与えず、『レメディ』と称する砂糖粒を与える」などといったことがある、ということ)を問題視している書き手は見かけていない(見てる範囲が狭いという可能性もあるが)。メディアで記事(っていうか読み物コラムだけどね)を書いてる人たちも、その記事(コラム)のコメント欄で何かをつぶやいていく一般読者も、「プラセボだっていいじゃない、治るんだったら」が基本だ。

そうだろう。その程度が一般的な認識なんだと思うよ。はまり込んでる人はともかくとして、一般的にはその程度なんでしょう。日本人だから奇異に見えるんで、イギリス人が日本の鍼灸や漢方を見たら、たぶん、「ニセ医療だ」といって騒ぐんじゃないの。僕は、CSIが雑誌で漢方批判特集を組むとか、ドーキンスが漢方を批判するとか、ジェイムス・ランディが東洋医学のウソを暴くとかやりだすと、日本のニセ科学批判も漢方批判を派手にやりだすはずだ、日本のニセ科学批判ってどうせその程度のもんでしかないと思っている。だから、アホくさいんだよ、日本のニセ科学批判って。それはともかく。


で、一番の問題は、イギリスの一般の認識がその程度で、ホメオパシーを現実に許容してるのにも関わらず、イギリス社会は十分に機能してる。なら、なんでそこまでホメオパシーに熱くならなきゃいかんかということに尽きてしまうと思う。ようは、ホメオパシーに毒されて現代科学を否定するアホがどれくらいいるかってこと。


報告書が最終的に政府の判断にどういう影響を与えるか。気長に様子を見たほうがいい。