オリンピックで日本人のメダリストが出ると大騒ぎになるが、「メダルをとったのはあくまでもその人なんだから、すごいのはその人で日本じゃない」云々という声があがり、これにいろんな議論が出たらしい。

どこの国でも、自分の国の選手がオリンピックのメダリストになると大騒ぎになるものだ。だから、面倒な理屈を言わなくてもよいのかもしれない。

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ただ、今の日本の場合、やや注意が必要ではないかと思うのは、いわゆる「日本スゲー」の類の風潮、つまり日本の文物・人を他国と比較したうえでとにかく日本を持ち上げる空気が強くなっていることだ。

飲み屋のテレビで、以前、姫路城とドイツのノイシュヴァンシュタイン城を比較するのに、ドイツの職人を姫路に連れてきて、無理やり感心させている番組というのがあった。これを見てしまい、クラクラした記憶がある。私は、姫路城の素晴らしさ・美しさは間違いなく世界に誇りうると確信しているが、しかしこんな意味の分からない番組のようなことをしようとは決して思わない。

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こういう文脈にメダリストの議論をおいてみると、やはり少し注意が必要だろうと思う。

日本はいろいろな事情から、「日本国」というものが自然に成立しているかのような錯覚を持たれやすい環境にそもそもあるうえ、相対化が難しくなっているのは間違いない。その分、「井の中の蛙大海を知らず」になりやすく、また「日本国」と自分とを容易に重ね合わせてあまり反省しない傾向も強くなってしまっている。

あなたはあなたであって、日本人である以前に、あなたという一人の人間だ。

そう考えると、「すごいのは、日本でも日本人でもなくて、この選手だよ」とイヤミの一つでも言いたくもなる気持ちは、私は分からないでもない。