ネット○○派 part118 ニセ科学批判のジレンマ

https://aspara.asahi.com/column/gantotomoni/entry/8T0HdyYzdp
はてなブックマーク - アピタル_がんとともに_がんの免疫療法 高額なのに効果未知数
この記事を書いてる記者に岡崎明子さんの名前が。ホメオパシー叩きの人ですな。ブクマの反応はどうだろうと思ったら、もっぱら好反応。


ただ、これは例の「捏造」記事の件と関係があるのでは。というのも、「捏造」記事を書いた一人の出河雅彦編集委員の意見と、同じなんだよな、これ。
https://aspara.asahi.com/blog/mediblog/entry/UK1giYMjBO

 有効性がはっきりせず、したがって薬事法に基づく承認も公的医療保険の適用も受けていない免疫療法を全額患者負担の自由診療で行う医療機関もあります。


 有効な治療法がなくなった患者さんはわらにもすがる気持ちで、こうした治療にかけておられるのだと思いますが、きちんとした研究計画に基づいて第三者の評価可能な臨床研究として実施されない限り、いつまで経っても薬事承認も保険適用も実現しません。


 製薬会社が行う治験だけでなく、有効性、安全性がはっきりしない研究的治療すべてに法的規制をかける意義は、このような事例も見ても大きいと思います。

正直言うと、件の記事は完全に「捏造」というより、うっかりそれっぽいことを言ってしまった人がいるんじゃないかと僕はまだひっかかりがあるんだけれど(なにせ、想定されたストーリーに事実を捻じ曲げてでも何でも当てはめるのは、検察官とジャーナリストだもん)、それはともかく、アピタルの記事ってそのレスポンスの一環に見えるんだよね。


だから、素直に良記事だとか言うのは、ちょっと躊躇するところがある。


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で、朝日としてはホメオパシーだろうがガンの免疫療法だろうが、効くか効かんか分からんもんで「治療費」をとるのは許せないという正義のもとで語られているので、
はてなブックマーク - アピタル_がんとともに_がんの免疫療法 高額なのに効果未知数

NATROM がんの免疫療法にかなり突っ込んだ批判。ホメオパシーと違って「効くかもしれない」ので批判には勇気がいったろう。良い記事。最近の朝日新聞はすごいな。

という認識は、根本的にずれてる。朝日にとっては、ホメオパシーとなにも違わないんだ。


一つに、ホメオパシーは科学的に否定されているという根拠は、ニセ科学批判としてホメオパシーだけを叩く根拠になってないというのはもう書いた。
ネット○○派 part116 続・ニセ科学批判はハゲをハゲと言わない - 今日の雑談


その流れだと、免疫療法も叩くのは結構だ良記事だと拍手喝采するのももっともだけれど、そうなると、効くか効かんか分からんもんで、副作用があるかもしれんのに経験に頼って医者が利用している漢方薬はどうなるんだという話になる。この点はニセ科学批判も朝日もダンマリ。


他方で、消費者問題としてみた場合、

tikani_nemuru_M 良記事。あやしげなガン療法は、継続してカネをむしりとる方法論としては麻薬ビジネスのビジネスモデルだな。本人に一時的にでも多幸感があるだけ、麻薬のほうがマシかもしれんが。

有名人だから引用してるだけで他意はないが、消費者問題としてみた場合、ホメオパシーのほうがまだましですよ、はっきり言えば。ホメオパシーで3ヶ月で百万単位の金が取られるってのはちょっと考えられない。悪質度からいえば、ずっと軽い。


いや、だから。ニセ科学批判として、科学の立場と、消費者問題としてってのがうまく統合できないって、こういうことでもあるんですよ。どう整理すんの?


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さらに言えば、本人が納得してるかどうかという意味でも、微妙な部分がかなりあるらしくて、「麻薬のほうがまし」とはっきり言えるのかどうかよく分からない。おなじアピタルの長尾和宏先生の連載から引用。
https://aspara.asahi.com/blog/machiisya/entry/pGJ2QwaKja

残念ながら、免疫細胞療法単独での有効性はまだ証明されていません。従って、抗がん剤放射線治療などの標準治療と併用するのが通常です。本来は、がんの再発予防がターゲットだそうです。


しかし実際には、免疫細胞療法単独にすがっている末期がん患者さんが、私の周囲にも相当数おられます。病院の主治医に黙って免疫療法を行っている患者さんもおられます。


私のような在宅ホスピス医が、免疫細胞療法を受けておられる最中の患者さんの主治医になることがしばしばあります。


クール宅急便で自宅に送られてくる袋を、黙って点滴します。 こうして在宅ホスピス医たちは恨めしい思いで、 「免疫細胞療法」を見てきました。何故、「恨めしい」のでしょうか?

https://aspara.asahi.com/blog/machiisya/entry/IWp5PsBSrY

在宅医は、100円の医療費にも文句を言われることがあります。


一方、免疫療法は、100万円単位の治療法です。桁が3つも違います。有無を言わさず、その対応や責任までも押し付けられている格好の在宅医には、免疫療法への不満が潜在的に鬱積しているのです。

「何百万円も投資した免疫療法が効かずに亡くなっても文句を言ったり、訴えられたりしないのか?」との質問には、「それが、不思議とない」そうです。


1カ月何万円もするような高価な健康食品が効かなかった人も、そういえば、不思議と文句を言いませんね。実際、ほとんどのがん患者さんが何らかの健康食品を飲んでいます。


何万円、何百万円だから、納得されるのかもしれません。「それだけ使ったのだから悔いはない」と、よく言われます。「大金で夢を買ったからこそ納得」されるのかもしれません。


数百円単位の訪問診療費や訪問看護費を惜しむ方でも、何十万円もする外国製だという健康食品には惜しまないようです。また、葬儀屋さんにも惜しみなく使う方が多くいます。お金の話ばかりになりました。


私は、「今後は、免疫療法医と在宅ホスピス医との連携を強化しよう。そして連携でエビデンスを作ろう」と提案しました。

これで麻薬ビジネスのほうがましだと断言できます?納得して大金積んでるなら、他人が文句を言う筋合いの話じゃないよ。


ちなみに、長尾先生はアピタルの連載ではやんわり書いておられるけれど、Twitterでははっきりしておられます。
http://twitter.com/dr_nagao/status/16037446905

免疫療法は、相変わらずエビデンスが無い。しかも高額。しかし大勢の人が受けて、効かなくても訴える人はいない。考えてみれば、不思議な世界だ。

http://twitter.com/dr_nagao/status/16037524945

がんが再発し、抗がん剤が効きにくくなるころに、お金に余裕のある人は免疫療法に走る。在宅医など見向きもしない人も多い。まるで宗教のようだ。

ホメオパシーと全く同じ構図なんだよね。「ホメオパシーと違って」と念を押す理由が、全くない。


何百万も無駄な金を突っ込むなら、気休めでもホメオパシーに頼ってるほうがましで(ガンにホメオパシーは効かないけれど)、そういう患者さんの気持ちは、僕は分かるような気がする。この辺は健康食品とかに頼る人とかも同じだろうな。程度問題だけど、許せないとかなんとか、正義の問題じゃないよ。


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まとめるとこういうこと。


このはてブの反応を見ていると、消費者問題としてとらえている人が多いので、そうなるとホメオパシーと比べたら、ホメオパシーのほうが廉価で気休めになる分ましだという話になるが、それは今までの議論とどう一貫性を保てるか。


他方で、効くか効かないか科学的根拠がないという立場で見た場合、ホメオパシーも免疫療法も同じだが、漢方も鍼も同じなので、これらを区別して取り扱う根拠がない。


ホメオパシーにまつわるニセ科学批判のジレンマって、こういうことですよ。
追記
ちょっとざっくり言い過ぎたと思ったのは、それでも真面目に研究しておられる方がたくさんいて、もちろんそれを云々する知識は僕にはない。だからそこまで言わない。


ただ、実際、件の「捏造」記事がでたとき、事業仕分けとの絡みで論じた人もあったと記憶する。そう考えると、ちょっと別筋も考えざるを得なくなるので、根性がひん曲がったひねくれものとしては、いろいろ大人の事情もありそうだなあと思わざるをえなかったりする。

追記2)
長尾先生、日本統合医療学会の会員なんだそうだが、漢方については、
https://aspara.asahi.com/blog/machiisya/entry/J8DzNdq813

まだ一部の医者や役人には、漢方薬は怪しい治療法と思われているようです。エビデンスが少ないので「非証明医療」に分類されがちです。しかし長い歴史が証明しているという考え方もできます。EBMだけが医療ではありません。

という考え方。長尾先生はニセ科学批判をやってるわけではないので、これはこれで分かる。こういうお医者さんもおられるんだなってことです。