イタリア極左・極右ポピュリスト連立政権の舞台裏 – アゴラ
八幡和郎が「イタリア極左・極右ポピュリスト連立政権の舞台裏」と題して、特に舞台裏でも何でもないことを書いているが、一つだけおかしいところを書いておこうと思う。

五つ星運動極左ポピュリスト、という扱いになっているが、おそらくこの点は大きく違う。

五つ星運動は左の過激な支持者に近いところも抱え込んでいるような印象を私も持っていたので、右の北部同盟とそう簡単に引っ付くことができるのかどうか、私にはよく分からなかった。そこで、Facebook上でイタリア政治に非常に詳しいイタリアの友人に話を振ってみたところ、そもそも五つ星運動は右とも左とも規定できない、どちらかを狙っているわけではないということなんだそうである。

実際、支持者の傾向を見ると、左派よりも右派とかぶっているという話もあり、支持者の幅は相当に広いとみるべきなのだろう。(もっとも、「五つ星運動は極右」という扱いを以前日本語で見たが、これも全く異なる)

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今回の組閣は非常な難産だ。3月4日の総選挙の結果は、事前の予測通り、右派・五つ星運動・左派で3分されてしまった格好になった。それ以来、第一党となった五つ星運動が中心となって組閣交渉が進められたが、これがうまくいかない。

五つ星運動中道右派が連立を組めば済む話のはずだが、中道右派にはシルビオベルルスコーニがいる。五つ星運動としては、スキャンダルまみれで古い政治の象徴であるベルルスコーニだけは絶対に許容できないので、ここで頓挫した。

次に中道左派との交渉が行われたが、前首相のマテオ・レンツィが五つ星運動との連立に猛反対し、連立賛成派と民主党内部で揉めに揉め、最終的にはこの交渉も破談となった。ちなみに、「壊し屋」マテオ・レンツィは「レンツィ党」を作るという話などもあるらしく、2016年末の国民投票に負けて以来、求心力を失ったレンツィは今度は中道左派をバラバラにし続けてしまっている。ただ、民主党は野党にまわれと強く主張したレンツィの政治的戦術はもっともなものと理解はできる。

さて話を戻して、ここで組閣交渉は袋小路に陥り、新内閣を作るか、速やかな再選挙かという瀬戸際に追い込まれたが、大統領はすぐの再選挙には否定的だった。日程的に厳しく、夏に入るとバカンスで選挙どころではなくなるうえ、6月のEU首脳会議、秋になると予算編成をしなければならず、選挙よりも何とか内閣を作りたい、どうしても選挙をするならば、大統領が実務家を首班にした内閣を組閣し、予算を何とか通してそれから選挙、という段取が話に上がっていた。

ところが、実務家内閣というと、今のイタリアではモンティ内閣のイメージが非常に強い。経済危機で破産の淵からイタリアを救ったマリオ・モンティだが、ある程度厳しい政策を施す必要があったこともあって、「実務家内閣はモンティで懲りた、それよりも選挙で市民の支持を得た政党による内閣を」というのがイタリアの空気であるらしい。

そこで、一旦頓挫したはずの五つ星運動中道右派との組閣交渉が復活。中道右派内で北部同盟のマテオ・サルヴィーニが、北部同盟五つ星運動と連立を組むが、中道右派を離れるわけではない旨を、「政治も民主主義も分かっていない五つ星運動なんて信用できないよ」と渋るベルルスコーニに何とか承諾させ、北部同盟五つ星運動の連立交渉・政策協議がようやく軌道に乗った。五つ星運動のリーダーであるルイージ・ディ・マイオとマテオ・サルヴィーニのフィーリングがどうも合うらしい。政策協定が合意にたどり着き、大統領に報告したのが先週の月曜日14日である。

その際に首相候補の名前が正式に発表されるかと期待されたが、ディ・マイオは大統領府で行われた記者会見で、もうちょっと時間が欲しいと言って、首相候補の発表は留保、世間を呆れさせたか、驚かせたか。

首相候補を誰にするかでも非常に揉めたようで、さらに一週間かかって、首相候補がようやく決定、21日月曜日にディ・マイオとサルヴィーニはマッタレッラ大統領に報告。23日水曜日、大統領はジュゼッペ・コンテを正式に首相候補として指名して、現在に至っている。

コンテは早速議会内各派と協議を開始して組閣に向けて始動、来週半ばには議会の信任投票を経て、新内閣がスタートする見込みのようだ。

ただし、コンテには学歴詐称疑惑が持ち上がっており、かつ政治経験もないので、順調に組閣が進むかどうかは、予断を許さない状況ではないか。

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大臣候補として取りざたされている中で、財務大臣になるのではないかと噂されているパオロ・サヴォーナが今もっとも話題になっている。EU・ユーロ懐疑派と目されるサヴォーナは、EUからも、大統領府からも警戒されているが、北部同盟はサヴォーナこそイタリアのための大臣としてふさわしいと譲っていないようである。

さてどうなるか、というのが今の段階。

大きな誤りのないまとめになっていればよいと思うが、近々、五つ星運動や現在のイタリア政治について話を聞く機会があるはずなので、ひょっとしたらここに書くこともあるかもしれない。