ただ、難しいのはこの種の極右・保守派が今の首相の周辺にいることが、ダイレクトにそのまま政策として反映されるかというと、それはそれほど簡単ではないということがある。

 

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ちょっと前に、今の自民党にも安倍さんに対抗する人がいることをもって、ファシズムではないと言った人がいたが、イタリアのファシズムでもそれほど簡単ではない。

 

ムッソリーニは、最強硬派の最右翼の暴力を利用して政権を握ったが、他方で政権を維持するためには旧来のエスタブリッシュメントとも握る必要はあったわけで、ここで大きく分けて二つの派閥ができた。

 

最強硬・最右翼で暴力も辞さないグループの支持を常にあてにして政権を運営できたかというと、それはそうではなく、彼らの言うことだけを聞いているとエスタブリッシュメントの利害と反してしまうので、適当なところで妥協しないといけなかったし、そのためには最もムッソリーニを支持したはずの最右翼グループを抑え込む必要があった。

 

したがってムッソリーニは、この種の最強硬派・最右翼の支持グループにはほとほと手を焼くことになる。

 

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戦後のイタリアではファシズムムッソリーニを支持する人も依然として一定の勢力を保った。それがイタリア社会運動MSIで、冷戦が終わるまでの間、政党として国会にある程度の勢力を保ってはいたものの、ファシズムを排除しない極右政党とされ、政権に関わったり、内閣に入ることは許されなかった。

 

ただ、閣外協力のようなことをやったことがあり、それはたとえば1960年のタンブローニ内閣成立の時が挙げられる。この時はMSIが支持した内閣ということで大きな反発を受けていたところ、レジスタンスの記憶がまだ生々しく残っていたジェノヴァMSIの党大会を行おうとしたために反対運動に火がついて、タンブローニ内閣は4か月しか続かなかった。

 

 

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イタリアの例をそのまま日本の現在の状況に当てはめることはもとより不可能ではあるが、少なくとも私にとっては大変に興味深く感じる。

 

実態はともかくとして、少なくとも表向きは、ファシズムを徹底的に排除しようとする建前をとり続けることには懸命だった。それは、当時の枢要の政治家たちはファシズムを経験してその怖さをよく知っていたことも大いに関係がある。

 

そこで今のイタリアはというと、かなり厳しい状況だと言わざるを得ないのかもしれないが、日本の状況もあまり人のことを笑えないのではないか。