網野善彦の研究テーマに「天皇支配の淵源を探る」というものがある。網野の「日本中世の非農業民と天皇」はとりわけそこに切り込んだ論文集と言えるもので、まえがきに「日本中世における天皇家経済の研究」「日本中世における非農業民と天皇の研究」で文部省の科学研究助成費を交付されたと書いてある。

網野は当然、天皇制に極めて批判的であり、なぜいつまでも日本人は天皇支配から抜け出せないか、という問題意識が念頭にあるのだが、こういう記述を見つけると、単純な話、今の日本史家たちはこの種の研究が出来るのだろうかと不安になる。

網野の本はそれなりに読まれたはずだけれども、このご時世、本当に理解されているのだろうか。あるいは今かりに網野善彦が生きているとして、こんな研究ができるのだろうか。