日本人はしばしば、理想主義や理念を笑う。非現実的だとか、青臭いなどと言ってバカにする。

しかし私は思う。

今現在、日本人が享受している基本的人権や、経済的繁栄は、これはすべてヨーロッパの歴史が生んだ理想や理念に依存している。

これをどう考えたらいいのだろうか、と。

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自由や平等などなどといった理念や、今の欧州ならば「欧州統合」といったほとんど夢物語のような理想を日本人は軽く見るのだが、もちろん、欧州の人間も理念・理想をそのまますぐに現実に落とし込めるとはサラサラ考えていない。

ただ、彼らは、理念・理想を、何十年、何百年と時間をかけて、つまり想像を絶する根気と、必要とならば文字通り命を懸ける情熱をもって、少しずつ現実にしてきただけだ。

戦争に負けた日本人は、いわばその果実を、たいしてありがたがりもせず、意味も分からぬままに、貪り食っているにすぎない。

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大事なのは、理念・理想と現実の往還だ。頭の中にある考えをやってみてもダメであることがほとんどだ。でもそんなことは最初から承知のことであって、それでもあきらめずに調整しながらうまくいくまで何度でもやる。そのうちにだんだんとその理念・理想に近づいていく。

これに対してたいていの日本人はどう発想するか。

目の前の現実に対してその場その場でうまくいく方法を考える。問題が発生してもそれで何とか切り抜けようとする、「現実主義」を発揮する。

だから、「理念・理想と現実の往還」などという、回りくどいことをやろうとすると、

「大人になれよ」

の一言で切り捨てようとする。

よろしい。大人になってみてもよい。それでお前たちのやっていることは、所詮、果実だけを貪り食う、恩知らずの餓鬼の所業ではないか。

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近頃、「日本はすごい」の類の言説にあふれている。外国をバカにして悦に入る人間が多い。

たかが餓鬼のくせに。