左右対立の不毛 籠池証人喚問をめぐって

最近、ネットを見ていて思うのは、左翼だというだけで、アンチ左翼から左翼を嘲笑非難してすましてしまう右翼、あるいは逆に右翼だというだけで、アンチ右翼から右翼を嘲笑非難してすましてしまう左翼、この両者の対立の不毛さ加減だ。

互いに嘲笑や非難を展開するが、自分たちについては自分で自分を批判するということはまずやらない。そうなると、右と左でまさに「うんこ」を投げ合っているだけで、右と左で議論が展開されて、より深まっていくという、弁証法のような、本来あるべき姿にはならない。

たとえば橋下徹の評価をめぐっても、左派のありがちな批判に対して、アンチ左翼で、左派を嘲笑するために、橋下にむしろ甘い顔をするというパターンも多く見られた。

この不毛さが端的に表れていたのが、籠池泰典の証人喚問をめぐる言説だと思う。

まず、左側からは次のような意見が見られた。典型例を挙げる。

https://twitter.com/yuutyan_n/status/842370450256621568

yuuji nakajima
総理大臣を侮辱と言う理由で証人喚問とかほざく政党に、共謀罪なんか作らせたらどうなるか、皆よく考えた方がいいよ。

https://twitter.com/260yamaguchi/status/842746227573768193

山口二郎
証人喚問への違和感。国政調査権は権力分立原理に基づき、立法府が行政府に対してチェックを働かせるための最終兵器。しかし、立法府の多数派自民、公明両党は、財務、国交両省の疑惑の解明には一貫して消極的でありながら、行政府の長たる安倍晋三にいちゃもんを付けたという理由で民間人を喚問する。

こういう批判は一見もっともらしく見え、またもっともな部分もあると思うが、しかし的を外しているんじゃないか。というのも、総理からすれば、この証人喚問はあまりにも大きな賭けだからだ。この点については、元検事の弁護士である郷原信朗がよく書いている。
籠池氏証人喚問は、自民党にとって「危険な賭け」 | 郷原信郎が斬る

自民党側が、野党側が求めてきた「参考人招致」ではなく「証人喚問」を提案したのは、それによって、偽証をすれば刑事罰を科される立場に籠池氏を追い込み、「昭恵夫人から100万円の寄付を受けた」との証言を撤回させるか、証言を維持するのであれば、偽証罪での告発によって籠池氏の証言が嘘であることを司法判断で明らかにしようという意図であろう。

しかし、もし、偽証の制裁を覚悟の上で行った国会で、「昭恵夫人から100万円受け取ったとの話が虚偽であった」と認めさせることも、虚偽だとする明確な根拠を示すこともできなかった場合には、逆に、籠池氏の証言が重みをもつことになる。それは、安倍首相にとって最悪の事態になりかねない。

今回の籠池証言について、偽証告発が行われ、処罰まで行われるためには、逆に、「籠池証言が虚偽であること」が「合理的な疑い」を容れない程度にまで立証できなければならない。

昨日、籠池氏が、昭恵夫人からの100万円の受領の話をしたと報じられてから、2、3時間後には、竹下国対委員長が「証人喚問」のことを言い出したというのは、拙速であった感は否めない。

私が助言する立場であれば、まず、野党側の参考人招致の話を受け入れ、参考人として十分に籠池氏の話をしっかり確認した上で、上記の点等について、籠池参考人供述の不合理性を追及するネタをしっかり用意した上で「証人喚問」に臨む、という戦略を勧めたであろう。

やはり、籠池氏証人喚問は、自民党にとって「危険な賭け」である。

そもそも首相自身にとって危ない賭けであるのに、上記のような批判が本当にできるのか、疑問を抱かざるを得ない。批判するのであればむしろ、郷原の言うように「戦略ミス」という点ではないか。

また、表面的には竹下亘自民党国対委員長の「総理に対する侮辱だから」という発言が批判されている。確かにこの点だけを取り上げると問題はあるし、批判にも意味なしとはしない。

しかし話はそれほど簡単ではなさそうである。

そのことを確認するために、まず典型的な森友問題に対する右派の態度を見てみると、次のようなものがあげられる。

https://twitter.com/mstk_Horiguchi/status/842389937072758784

mstk_Horiguchi
関西大学法学部 ウソ
自治省入省後奈良県 ウソ
海陽学園提携 ウソ
契約書 ウソ

でもなぜか「首相から寄付を受けた」だけは真実と思っちゃう人がいるんだね
すごーい たのしー

https://twitter.com/iwata910/status/842535308956643328

岩田温
反安倍のためなら、昨日まで教育者失格と罵っていた相手とも連携する。益々国民は野党に不信感を抱くのでは?

https://twitter.com/iwata910/status/842544436743557120

岩田温
籠池氏の証人喚問が決定し、民進党はじめ野党が勢いづいているが、どうも、自民党が状況を逆転させるための一手を打ったという気がしてならない。あくまで勘に過ぎないが。

・・・とまあ、野党とその支持者を笑うか、贔屓の引き倒しをするかになっている。

ところが、実際はそれほど簡単な話ではないことは次の記事から明らかだ。
森友問題、自民党が証人喚問を決めた舞台裏 | 国内政治 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準

この経緯を見る限り、ありもしない寄付をでっち上げられた安倍首相の名誉を守るために、自民党は証人喚問を開こうとしているようにもみえる。しかし、実は同日お昼過ぎ、自民党本部で大阪府議会議員団が二階俊博幹事長に要望書を渡している。

この要請と同時に府議会で籠池氏の招致を行いたい旨を伝えたところ、二階氏は黙諾したという。

「もう大阪では、『なんで自民党は籠池問題をやらへんのや!』と批判でいっぱいです。このままでは次の選挙にも影響しかねません」(大阪府連関係者)

一般的に森友問題は「昭恵夫人案件」と見なされているが、大阪ではもっぱら「維新案件」と見なされている。府議会では野党であり、大阪維新の会と対立する自民党大阪府議会議員団にとって、森友問題は是非とも議会で取り上げて解明したい問題なのである。

ただ官邸は橋下徹氏や松井一郎大阪府知事など大阪維新の会と極めて近いため、自民党大阪府連としてはこれまで動きにくかった側面もある。

実は、大阪自民党と中央とでは、維新の会をめぐって大きくねじれているという現実があったわけだ。森友問題はちょっとおかしい首相夫人の言動の問題ではなく、大阪府知事大阪市長の要職を押さえている維新の会による行政に関する問題だということだ。

そのうえで、維新の会と近い総理と、維新の会と対立している大阪自民党とのねじれが、唐突な証人喚問となって表れた、というわけだ。

ここで一つ言えることは、「総理に対する侮辱だ」という発言は確かに問題はあるが、事態はそういうほど単純ではなかった点だ。ここは指摘しておかないといけない。

さらにそのうえで、私は左翼を笑う右翼の人たちに言いたい。あんたがた、どのツラ下げて左翼を笑うのか。左翼を笑う権利があると思うのか

・・・

この記事を書くにあたって、少しばかり twitter の世界を眺めてみたが、菊池誠の意見が全く的外れであることに驚いた。

https://twitter.com/kikumaco/status/842402248340660224

アッキーが軽率なトンデモさんであることは間違いないんだけど、問題は「首相の配偶者が軽薄なトンデモさんであることは首相の政治的責任問題になるのか」ってことじゃないかなあ

問題はそういうところにない、ということは、昨日から書いてきた通りだ。ここにもう一度繰り返すと、維新の会の「素性」は普通の政党というものではなく、そういう政党と首相が密につながっていて、首相は、たとえ直接何かをしなくても、利益誘導の後ろ盾になっていた、そのことが問題なのだ、ということだった。

ここで、首相夫人の問題にしてしまうのは、あまりにも一面的すぎると言わざるを得ない。

菊池誠は京都生まれの青森育ちでいまは大阪大学の教授だが、昨日引用した玉井克哉は和泉出身であり、二人とも関西と縁の深い人なのに、どうして維新の会の「素性」の問題についてきわめて無頓着なのか、これが私にはまったく理解できない。

したがって、同じ菊池の次のような tweet もまた的外れということになる。
https://twitter.com/kikumaco/status/842405733861740546

「そういう人と付き合うのは人としてどうよ」って言いたいのは分かるし、あの人はやめとけって思うけど、だからと言ってそれだけでは政治的な責任問題ではないと思うんだよ。土地問題で口利きがあったかどうかを明らかにすればいいわけでしょう

個人的には、ヤクザとも話ができるくらいでないと、政治家なんてできないだろうと思う。

しかし、今度の話は、そういうことで済ませられなくなってしまった話だということも、すでに書いたところだ。